公募班[前期]A02:動的秩序の創生

飯野 亮太

自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター
教授 博士(理学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 ATP駆動サイボーグ回転分子モーターの創生
研究目的  非天然アミノ酸置換や他の生体分子・人工分子との複合化で天然にない新しい性質を持つATP駆動サイボーグ回転分子モーターを創生する。例えば、下記のサイボーグ回転分子モーターの創生を目指す。1.ATP加水分解に重要なアミノ酸残基“アルギニンフィンガー”を非天然アミノ酸で置換することで、野生型よりも回転速度が速いF1モーターを創生する。2.二重鎖DNAを回転子として回転させるF1モーターを創生する。二重鎖DNAを解きほぐすヘリカーゼや輸送するトランスロカーゼは存在するが、二重鎖DNAを回転させる分子機械は存在しない。さらに回転分子モーターに限らず、サイボーグリニア分子モーターの創生にも取り組む。創生したサイボーグ分子の機能は1分子計測で徹底的に評価する。

上野 隆史

東京工業大学 大学院生命理工学研究科
教授 理学博士
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 人工分子針の細胞膜貫通制御
研究目的  本研究では、バクテリオファージT4由来の蛋白質から合成した分子針の細胞膜透過性の高効率化と、細胞内の動的挙動制御を目的とする。具体的には、申請者が構築した分子針を基盤に、針構造を分子レベルで調節し、機能制御を達成する。これまでも、多くの細胞膜透過材料が報告されているが、その細胞毒性や高効率化に克服すべき課題が残されている。加えて、近年では、数十から数千の蛋白質を集合化して、チューブやカプセル、ケージ等を構築する研究がすすめられているものの、天然の蛋白質集合体が持つような巧みな機能を再現するには至っていない。その理由は、静的な蛋白質集合体の構築に主眼が置かれ、生体内での機能発現に重要な蛋白質集合体の動的挙動に着目した研究がほとんど進められていないことにある。蛋白質分子針を基盤とする細胞貫通分子針作成は、細胞膜貫通の動的機構の理解を基軸とした医学•薬学的な応用研究につながるばかりではなく、新しい概念の分子操作技術の領域を切り開くと確信する。

神谷 由紀子

名古屋大学 未来材料・システム研究所
講師 博士(薬学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 DNAを相互作用素子として細胞様運動する人工システムの構築
研究目的  糖鎖、タンパク質、核酸といった生体高分子は、生命システムの中で単独で働いているのではなく、互いの相互作用を通じて高次な生命現象を生みだしている。たとえば、細胞遊走においては糖鎖とタンパク質の間の特異的で弱い相互作用が決定因子となっている。また、アクチン繊維においてはアクチン分子の大規模な重合・解離の繰り返しが細胞運動の推進力へと変換されている。本研究では分子の相互作用が特定の生命現象を生み出すメカニズムを明らかにするために、生命現象を再現するような人工システムを構築する。そのための相互作用素子としてDNA に着目し、DNAの二重鎖形成を、生命分子間の相互作用に置き換え、分子間相互作用・自己組織化・そして集合体の離散の過程が高次の生命機能発現へと展開するシステムを人工的に構築する。これにより、生命分子の秩序形成における設計原理・作動原理の普遍性や特殊性が明らかになると期待される。

佐田 和己

北海道大学 大学院理学研究院・化学部門
教授 工学博士
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 動的秩序形成を利用した化学反応応答システムの開発
研究目的  生命システムにおける動的秩序形成のモデルとして、媒質中における低分子(エフェクター)と合成高分子間の超分子化学的にデザインされた会合の制御を取り上げる。特にエフェクターと合成高分子の会合の切断を熱によって制御し、温度によって合成高分子のコンフォーメーションや溶解性を劇的に変化させる熱応答システムの分子デザインの解明を第一の目的とする。この系がエフェクターの濃度変化によって高分子の相分離を誘起できることに着目し、低分子(エフェクター)の化学反応と高分子のコンフォーメーション変化・相分離の共役をデザインし、化学反応に応答するシステムの開発を第二の目的とする。さらにこの合成高分子に別の化学反応の触媒を導入することで、ある化学反応の進行に伴い、別の化学反応の進行が制御できるシステムの構築に挑戦する。この系はアロステリック機能をもつ人工触媒の開発につながり、フィードバック阻害などが実現できれば、生命システムにおける動的秩序の一つである化学物質の恒常性の理解につながると期待できる。

澤田 知久

東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻
助教 博士(工学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 ペプチドフォールディングと超分子錯体によるハイブリッド動的秩序形成
研究目的  本研究では、超分子化学によるものづくりと生命分子の科学の融合領域を開拓し、生命分子に潜在する動的秩序形成を解明するための人工系—生命系のハイブリッド材料を創出することを目的とする。超分子錯体合成に関する知識や技術をベースにして、生命分子に備わっている動的秩序形成を引き出し、新たなナノ材料の構築を目指す。特に、生命分子によって囲まれた精密なナノ空間を人工的に作り出し、その空間内へ別の生命分子を包接させ、生命分子間に働く微弱で複雑な相互作用の観察を目指す。本研究では、生命分子素子としてのオリゴペプチドに特化し、そのフォールディング挙動や分子間に働く相互作用に関する、動的秩序形成を研究対象とする。単純に、ペプチドの化学修飾を施した超分子錯体を合成するのではなく、超分子錯体のscaffoldを十分に生かして、ペプチドのフォールディングや会合を促し、複数のペプチド2次構造によって精密に囲まれたナノ空間を創出することを目指す。生命分子の科学と超分子化学、いずれにも新たな展開をもたらすような新規材料の創出を目的とする。

杉安 和憲

物質・材料研究機構
高分子材料ユニット 有機材料グループ
主任研究員 博士(工学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 感染性の超分子集合体:メカニズムの解明および時間発展の分子論的制御
研究目的  ごく最近我々は、超分子集合体の形態変異を伴う『感染現象』を発見した。この感染メカニズムは、プリオン病のそれと非常に類似していることを明らかにしつつある。本研究では、この感染プロセスを熱力学的および速度論的に解析し、メカニズム(Pathway Complexity)を完全解明する。さらに、分子構造がメカニズムに及ぼす影響を明らかにする。最終的には、解明したメカニズムを応用して、複数の誘導体からなる混合系へと展開し、分子集合過程におけるPathway Complexity を自在にプログラミングする。以上の研究を通して、超分子集合体の形成過程における速度論的な複雑性に関して理解を深め、その制御法の確立を目指す。これは、時空間的にプログラミングできる自律的機能材料の実現性を明示することと同義である。

鈴木 大介

信州大学 繊維学部
准教授 博士(工学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 高分子コロイド分散系における動的秩序の構築
研究目的  顕微鏡下において個々の微粒子の水中分散状態の観察が可能な高分子微粒子を対象とし、微粒子個々の高度構造制御手法を駆使することによって、一定環境下において粒子間相互作用を周期的に変化させることが可能な機能性高分子微粒子を開発する。粒子間相互作用の周期的な変化を、バルク状態または界面上において調査し、高次元微粒子集積体が構築してゆく現象を精査する。特に、個々の微粒子の構造が、最終的に得られる微粒子集積体に与える影響を検討し、構成要素である高分子微粒子の特徴の重要性を明らかにすることを目指す。そして、本研究における人工システムの中に、生命システムの動的秩序形成に見られる普遍性を見出し、生命システムのより深い理解につなげる。

二井 勇人

東北大学大学院農学研究科応用生命科学専攻
准教授 農学博士
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 コート小胞形成における動的秩序形成メカニズムの解明
研究目的  本研究の目的は、真核生物の小胞体からゴルジ体への輸送を担うCOPIIコート小胞をリポソームから人工構築し、動的秩序が形成されるメカニズムを明らかにする事である。低分子量GTPase であるSar1と2種類のCOPIIコートタンパク質複合体、Sec23/24ダイマーとSec13/31テトラマーによりリポソーム上にコートが形成される。この過程はSar1のGTP/GDPサイクルと共役している。すなわち、GTP型Sar1はリポソーム膜上でコート集合の核となるが、GTPが加水分解されGDP型Sar1になると、コートは直ちに崩壊する。Sec23がSar1 のGTPaseを促進するため、このような現象が起こる。GTP存在下で小胞形成を可能にする因子を探索し、これまでにヌクレオチド交換活性を持つSec12を導入するとリポソーム上にコートが維持されることを明らかにしたが、小胞の分離は効率的には起こらなかった。小胞形成過程は、コートの形成と解離というダイナミックな変化の中でおこる。本研究では、①小胞の出芽、②膜タンパク質の積み込み、③小胞が分離する過程を生化学的解析に加えて、可視化・観察する動的秩序システムを構築し、輸送小胞形成の原理を明らかにする。

二木 史朗

京都大学化学研究所
教授 薬学博士
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 生体膜における曲率形成と膜の形態変化を誘導・制御するペプチドツール
研究目的  近年、種々のタンパク質・ペプチドに生体膜に曲率(curvature)を誘導する機能が備わっていることが明らかとなってきた。このようなタンパク質・ペプチドの曲率誘導原理を理解できれば、細胞の営みの本質の一端に迫れるのみならず、これらの原理を活かした機能性ペプチドの創出により、種々の細胞現象を調節・制御できる新しい方法論の開発が期待できる。本研究では、これを念頭に、 (i)正あるいは負の曲率誘導能を有することが示唆されている一連のペプチドの曲率誘導様式を系統的に評価し、その特色や異同に関しての知見を得る。(ii)次いで、アミノ酸組成・配列、両親媒性、ペプチド鎖長、膜上でのペプチドの実効濃度等を考慮した種々の類縁体の合成を通して、曲率誘導におけるこれらの要因の寄与を検討する。これらの試みを通して、生体膜に効果的に曲率を誘導するための基礎的原理を理解することを目的とする。

松浦 友亮

大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻
生物工学コース
准教授 工学博士
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 リポソーム内膜タンパク質合成系を用いた細胞膜動態の再構成
研究目的  ミトコンドリアの形態変化に関与する分子は複数特定されてきたが、その多くがtop-down手法により明らかになったものである。すなわち、遺伝子操作技術を用い、特定のタンパク質が存在しないときの細胞の形態を観察することで、そのタンパク質の役割が明らかになってきた。一方で、このtop-down手法と平行して進められるべきbottom-up手法(再構成アプローチ)は、ほとんど例がない。なぜなら、形態変化を誘導するのが膜タンパク質であることが多く、これらを単離精製することが難しいからであると考えられる。我々は細胞サイズの人工脂質二重膜小胞リポソーム内で無細胞翻訳系を用いて膜タンパク質を合成する技術を確立してきた。本研究課題では、無細胞翻訳系による膜タンパク質合成系を用いミトコンドリア内膜タンパク質の1つLetm1が細胞膜の形態変化という高次機能を発現するメカニズムを解明することを目的とする。

三宅 弘之

大阪市立大学 大学院理学研究科 物質分子系専攻
准教授 博士(理学)
領域での役割 A02 公募研究代表者
研究課題 メタロペプチドの分子認識化学を活用した動的秩序の多段階創生とタイムプログラミング
研究目的  配位金属錯体は特異な立体化学と動的な配位子交換特性をもち、それらを精密に組み合わせると、空間と時間の同時プログラミングが可能となる。そのため、光学異性体をも含む立体構造を刺激応答により自在にコントロールできれば、生体系で見られるような多段階の動的秩序形成の人工系での実現と分子レベルでの原理の理解が期待される。本研究では、光学活性なビスアミノ酸配位子と置換活性な金属イオンにより構築されるらせん型メタロペプチドの動的構造変換を基盤として、弱い相互作用をもたらす外部刺激(酸・塩基・アニオン・酸化・還元・光や選択的な分子の認識)の組み合わせをトリガーとした、連続構造変換を行うことのできる超分子レベルでの多段階な動的秩序形成システムの創生を目指す。さらに、構造変換過程における構造情報の分子内伝達とその自律的な時間発展を自在に操るタイムプログラミングに着目して高次な機能発現の探索を行う。