公募班[後期]A01:動的秩序の探査

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秋山 修志

自然科学研究機構・分子科学研究所
協奏分子システム研究センター
教授 工学博士
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 X線溶液散乱と高速AFMを用いた生物時計因子の動的構造解析
連携研究者 内橋貴之
金沢大学・理工研究域 数物科学系 教授 博士(工学)
向山厚
自然科学研究機構・分子科学研究所 助教 博士(工学)
研究目的  生命の見せる柔軟性や適応性の所以は生体分子の動的振る舞いにあり、その構造や状態の変遷をあるがままに計測することは生物学における重要課題である。本課題では藍藻の生物時計システムを題材に、その中核をなす時計タンパク質(KaiC)の分子動態をX線溶液散乱や液中高速AFMを用いて精査し、細胞システム全体に表出する動秩序(リズム)の周期や温度補償性の本質に迫る。

秋山 良

九州大学・大学院理学研究院化学部門
准教授 博士(理学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 多価カチオン媒介型実効引力に注目した蛋白質溶液の相挙動と動的秩序構造制御機構
研究目的  アメーバ様の細胞は、アクチン様蛋白質の会合・解離とアンカーリングを利用して移動する。この課題の目的は、統計力学に基づいて細胞移動という高次機能発現の基礎であるトレッドミル運動の駆動力と制御機構の理解を進める事(第1目標)、及びアクチン分子に限定されない応用の探索を行う事(第2目標)である。そのトレッドミル運動とは、会合・解離を通じてアクチンモノマーが動的秩序形成を行い、アクチンフィラメントが一方向へ移動する現象のことである。この課題を議論する上でフィラメント形成の相図に着いて議論する事は極めて重要である。G-F変換の相図に着いては実験的には得られているが、それを説明する為の相図と構造を、シミュレーション研究で明らかにしたい。ただし、そのシミュレーション研究で用いる実効相互作用として積分方程式理論で求めたものを使ってゆく予定である。申請者が提案するカチオンを介した引力発生機構とATPの加水分解による価数変化に注目する事で上記第一目標を統計力学の観点から説明し、第2目標である応用を考えてゆきたい。

池谷 鉄兵

首都大学東京・理工学研究科
助教 博士(農学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 生細胞内の秩序と蛋白質構造安定性の解明に向けた基盤技術
連携研究者 伊藤隆
首都大学東京・理工学研究科 教授 博士(理学)
Peter Güntert
首都大学東京・理工学研究科 客員教授 博士(理学)
研究目的  生体分子の動的な秩序形成の真の理解には、それらが実際に働いている細胞内における分子の立体構造とその動態の解析が欠かせない。一方で、これまでの構造解析の殆どが単離・精製した分子の計測であり、秩序を持って機能している細胞内とは程遠い希薄溶媒中の計測に過ぎなかった。我々は、in-cell NMR 法と呼ばれる細胞中の蛋白質を原子分解能で解析可能な手法を用いて、これまでに細胞内蛋白質立体構造決定法などの新規手法開発を進めてきた。これら手法をさらに応用すれば、生細胞内で生体分子がどのような動的振る舞いを持ち、その分子秩序形成・機能発現に関わっているかを明らかにすることも可能になる。本課題では、細胞内の秩序形成機構解明の第一ステップとして、細胞内ダイナミクスと他の分子との相互作用をin-cell NMR を用いて明らかにし、生体高分子の細胞内での構造・運動性・複合的な相互作用の包括的理解を目指すことで当該領域に貢献する。

岩田 耕一

学習院大学・理学部化学科
教授 理学博士
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 人工脂質二重膜におけるドメイン構造の実験的探究
連携研究者 髙屋智久
学習院大学理学部化学科 助教 博士(理学)
研究目的  生体膜は、細胞の主要な構成要素である。細胞内での生化学反応の多くは、膜タンパク質を触媒として、生体膜の内部あるいはその近傍で進行する。生体膜の構造とその時間変化は、そこで進行する生化学反応に対してきわめて大きな影響を与えている。生体膜に関する研究には長い歴史があるが、生体膜の構造とその動力学の研究は未だその途上にある。生体膜の有力な構造モデルである「脂質ラフト」は、脂質二重膜の内部にゲル相類似の構造と液晶相類似の構造が共存すること、すなわち脂質二重膜がドメイン構造を有することを仮定している。しかし、脂質ラフトが存在することを明確に示す実験的な証拠が得られたとは言い難い。「脂質ラフト」モデルの妥当性を検証することは、魅力的な問題の一つである。
 脂質分子が会合して二重膜を構成すると、高分子であるタンパク質や核酸よりも大きな構造体を形成する。ただし、脂質膜がその機能を発揮するためには、脂質分子が「正しく」会合することが必要不可欠である。脂質二重膜における脂質分子の会合の状態を分子論の立場から解明することは、それ自体が細胞の機能を解明することにつながり、かつ分子の会合が生体機能の発現にとっての支配的な要因となることを端的に示す好例となるだろう。

内橋 貴之

名古屋大学大学院理学研究科
教授 博士(工学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 高速AFM計測によるKaiタンパク質のロバストな概日周期発生機構の解明
研究目的  シアノバクテリアの概日周期を司る3つのKaiタンパク質(KaiA, KaiB, KaiC)は、ATPと試験管内で混合するだけでKaiCのリン酸化状態が概日周期的に変動する。この振動体は概日時計の特徴である「自律的発振」、「温度補償性」、「位相同調性」を有する極めてロバストな系であることが知られている。これまで、電子顕微鏡やX線小角散乱などの構造解析により、3つのKaiタンパク質の複合体形成能が概日周期的に変動することが示されている。さらに、位相同調能の分子実態はKaiC六量体間のモノマー交換によることも示されていることから、ロバストな概日周期の実現とKaiタンパク質の分子間相互作用は密接に関連していると考えられている。しかしながら、従来法ではKaiタンパク質の離散集合過程を一分子レベルで追跡する手法がなかったため、Kaiタンパク質間の動的相互作用と概日周期の関連を明らかにすることは困難であった。
 高速原子間力顕微鏡(AFM)は、タンパク質の離散集合過程を高い時空間分解能で直接可視化できる計測手法であることから、分子の動的秩序の探査に有効な手法である。本研究課題では、高速AFM計測によりKaiタンパク質間相互作用の温度依存性やKaiC六量体内サブユニット間のリン酸化状態の協同性、モノマー交換過程を解析することで、分子間相互用の観点からロバストな概日周期発生の分子機構を明らかにすることを目的とする。さらに、領域内共同研究を通じて、有機超分子からタンパク質分子複合体までの動的秩序の探査ツールとして高速AFM法を提供することで、本領域の研究推進に貢献することも重要な目的である。

高田 十志和

東京工業大学・物質理工学院
教授 理学博士
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 ロタキサン連結高分子系超分子における組織化制御
連携研究者 青木大輔
東京工業大学 物質理工学院 特任助教 博士(工学)
研究目的 高分子では線状・分岐状・環状などその一次構造やトポロジーの違いによって物性が大きく変わることはよく知られている。本研究では、ロタキサン構造を高分子鎖の連結点に組み込むことにより、高分子の一次構造を自在に変換できるトポロジー変換システムを創成する。外部環境や刺激によって分岐状(星形)から線状(ブロック状)、環状から線状等へと一次構造が変換可能なシステムは、動的な連結点のミクロな分子応答が高分子鎖全体のトポロジー、さらにはそのトポロジーを反映したマクロな分子の自律的な集合(自己組織化)を制御する動的秩序形成系となり得る。本研究では、これまでに開発した同一成分からなる高分子で構築したトポロジー変換システムをブロック共重合体に適用することで、微小なロタキサン分子スイッチがブロック共重合体のトポロジーを、そして組織化構造を変え、ついには表面やバルクの機能・物性をスイッチできる多様な動的高分子系を創出することを目的とする。すなわち、ロタキサン連結構造を持つ2成分又は3成分系ブロック共重合体の合成、光や力学刺激等の外部刺激によるトポロジー及び組織化構造のスイッチ、そしてそれに伴うマクロな機能・物性変換を実現する。本研究は人工高分子・超分子系における動的秩序形成系を提案するもので、このような構造体では自己組織化及び変化の過程を評価しやすく、刺激を与えた直後の非平衡系から平衡系への変化を直接観察できるため、生命分子システムの動的秩序形成解明にも貢献するものと期待される。

立川 仁典

横浜市立大学・大学院生命ナノシステム科学研究科
教授 博士(理学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 超分子・生体分子の自己集合機構の理解のための量子シミュレーション手法の高度化
研究目的  超分子・生体分子における自己集合機構の解明を目指し、申請者らが構築してきた量子シミュレーション手法を高度化させ、領域内での実験グループとの密な議論に基づき、量子化学計算の立場からこの課題に挑む。具体的には、量子シミュレーション手法の高度化として、階層的手法の実装、効率的サンプリング手法の実装を行う。それにより、超分子・生体分子の自己集合機構の解明に向けて、歯車状両親媒性分子の超分子自己集合、低障壁水素結合(LBHB)たんぱく質の高次構造転移に焦点を絞った計算を実現する。申請者の理論手法と実験研究者との有機的な結びつきにより、当該領域の研究推進に大きく貢献する。

内藤 晶

横浜国立大学・大学院工学研究院・
機能の創生部門
教授 理学博士
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 脂質環境でのヒトカルシトニンおよびグルカゴンのアミロイド線維形成分子機構の解明
連携研究者 川村 出
横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 博士(工学)
研究目的  ヒトカルシトニンはカルシウム代謝を制御するペプチドホルモンであり、グルカゴンは血糖値の上昇を促すペプチドホルモンである。これらのペプチドホルモンはアルツハイマー病に見られるアミロイド線維形成ペプチドとして認識されている。これらのアミロイド形成ペプチドの線維形成現象を解明するため、固体NMR、TEMおよび分子動力学計算の手法を用いて線維形成反応機構の解析、線維の立体構造決定を行い、線維形成の分子機構を明らかにすることを研究の目的とする。本研究では、特に脂質膜環境で起こるアミロイド線維の形成機構と阻害機構の解明に焦点を絞る。第1に、脂質膜とペプチドの相互作用を明らかにし、線維形成分子機構を明らかにする。第2に、線維形成の初期段階に現れる線維中間体の検出、および線維形成へと進む動態変化機構の解明を行う。さらに、線維形成を阻害する分子設計を行い、アルツハイマー病に代表されるアミロイド病の予防や治療薬の開発に貢献することを目的として研究を進めていく計画である。

東 雅大

琉球大学 理学部 海洋自然科学科 化学系
助教 博士(理学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 光捕集複合体における自己組織化過程と機能発現の理論的究明
連携研究者 斉藤真司
分子科学研究所 理論・計算分子科学研究領域 教授 博士(理学)
研究目的  多くのタンパク質は、他のタンパク質や補因子と結合して複合体を形成して初めて機能を発現する。しかし、その形成過程についてはほとんど未解明のままである。紅色細菌の光合成系において、反応中心に光エネルギーを伝達する機能を持つ光捕集複合体もそのようなタンパク質複合体の1つである。この光捕集複合体は高い自己組織化能力を持ち、2種類のポリペプチドと色素が環状に複合体を形成し、色素の励起エネルギーを下げることでエネルギー伝達の機能を発現する。しかし、自己組織化過程・機能発現におけるタンパク質の構造や揺らぎの役割については全く明らかになっていない。そこで本研究課題では、分子シミュレーションを用いて紅色細菌の光捕集複合体における自己組織化過程と機能発現の分子論的機構を明らかにする。分子動力学シミュレーションや量子化学計算、応募者が開発した手法などを活用して光捕集複合体のサブユニットと高次会合体のそれぞれの構造や機能発現、形成過程などを解析し、タンパク質の構造や揺らぎとの相関を明らかにする。

松村 浩由

立命館大学生命科学部生物工学科
教授 博士(工学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 細胞分裂の階層構造ダイナミクスの解明
連携研究者 内橋貴之
金沢大学理工研究域数物科学系 教授 博士(工学)
重田育照
筑波大学計算科学研究センター 教授 博士(理学)
研究目的 細菌の細胞分裂は、細胞膜の陥入・分裂という顕著な形態変化を伴う。この細胞膜の陥入・分裂において中心的な役割を担っているのがFtsZである。FtsZは、細胞膜の内側に沿ってGTP依存的にリング状のポリマーを形成し、ダイナミックに離合集散を繰り返す。その結果、細胞膜の陥入を引き起こす。これまで黄色ブドウ球菌のFtsZと、FtsZを膜にアンカーするタンパク質FtsAを大量に調製する系を確立し、この2種のタンパク質がどのように協調して機能するのかを生物物理化学的手法を用いて解析してきた。そしてそれらの解析の結果、FtsZが溶液中でダイナミックに揺らいでいることが分かった。そこで本研究では、さらに異なる生物物理化学的手法を適用して、ダイナミックなFtsZの構造ゆらぎが如何にして膜分裂の駆動力となるのかを分子レベルで理解することを目指す。また、黄色ブドウ球菌由来のFtsZは抗MRSA薬のターゲットでもあるため、FtsZに対して高い選択性を有する阻害剤の開発にも取り組み、その化合物がFtsZの動的秩序に与える影響も検証する予定である。
本研究による細胞分裂タンパク質の動的秩序の理解と、阻害剤開発が進展すれば、その成果は広く生命科学分野や医薬分野への波及効果を与えることが期待される。

松森 信明

九州大学大学院理学研究院
教授 博士(理学)
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 蛍光標識脂質を用いた脂質膜の動的秩序解析
連携研究者 木下祥尚
九州大学大学院理学研究院 助教 博士(理学)
研究目的 脂質ラフトはコレステロールやスフィンゴ脂質に富んだ秩序性の高い領域で、近年その生理的重要性が認識されてきた。一方で、生成と崩壊を繰り返しつつ自己組織化しているため、特に生細胞膜におけるラフト形成の分子基盤は未解明のまま残されている。我々はこれまで安定同位体標識した脂質の化学合成とNMRを組み合わせる独自の手法で、脂質の動的挙動および分子間相互作用の解明に取り組んできた。本研究では、本新学術第一期において有用性が明らかとなった蛍光スフィンゴミエリンの設計指針に基づいて、新たに各種脂質の蛍光体を開発し、蛍光観察による脂質膜動的秩序解析の高度化を図る。さらに、単純な人工膜ばかりでなく、多成分系膜、特に脂質の外葉と内葉の組成の異なる非対称膜、さらには生細胞膜へと研究対象を拡大していく。このように、本研究では特に蛍光観察を用いて脂質ラフトを含む細胞膜における各種脂質分子の動的秩序を解明していく。

養王田 正文

東京農工大学・大学院工学研究院
教授 工学博士
領域での役割 A01 公募研究代表者
研究課題 プレフォルディン-2型シャペロニンシステムのダイナミクスとフォールディング機構
連携研究者 篠原 恭介
東京農工大学大学院・グローバルイノベーション研究院
特任准教授 博士(工学)
研究目的  プレフォルディンと2型シャペロニンは古細菌及び真核生物細胞質のプロテオスタシスにおいて重要な役割を担っている。プレフォルディンは6本足のクラゲ様構造をしており、変性タンパク質を捕捉して凝集から守る。さらに、2型シャペロニンに結合し、その変性タンパク質を受け渡し、2型シャペロニンがATP依存的にそのリフォールディングを促進する。我々のグループは、これまで、高い構造安定性とフォールディング活性を有する超好熱性古細菌由来2型シャペロニンを用いて、その構造ダイナミクスの解析とタンパク質フォールディング機構の解明を行ってきた。しかし、真核生物由来プレフォルディン−2型シャペロニンシステムは古細菌のものと比較して構造が複雑で基質特異性なども異なることから、本研究では、真核生物由来プレフォルディン/2型シャペロニンのアセンブリー、結合解離のダイナミクスと変性タンパク質のフォールディング過程を明らかにし、真核生物細胞質におけるプレフォルディン−2型シャペロニンシステムによるタンパク質フォールディングのメカニズム解明を目指している。具体的には、比較的高い構造安定性が期待できる好熱性真菌Chaetomium thermophilum由来プレフォルディンと2型シャペロニンを用いて実験を行う。