公募班[前期]A03:動的秩序の展開

内山 進

大阪大学・大学院工学研究科
准教授
自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター
客員准教授
薬学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 質量分析による蛋白質複合体形成メカニズムの解明
研究目的  分子複合体の構造解析は、多くの場合、X線結晶解析、NMR、電子顕微鏡、により行われている。我々は新たな構造解析法開発と上記手法の補完を目的に未変性状態での質量分析法(Native MS)や水素重水素交換質量分析法(HDX-MS)による複合体の相互作用・構造変化部位の決定を進めてきた。本研究ではNative MSにより複雑な分子複合体の形成機構の解明を行い、さらにHDX-MSによる複合体形成に伴う構造変化の解明を行う。本研究で対象とする分子複合体は、生体内において構成するサブユニットが、時間発展的に置き換わり、再構築され、機能を有した大きなタンパク質複合体を形成する。本研究においては、前述の二種類の方法を用いて、サブユニット間の時系列を追った会合様式の解明(マクロな視点)、その際に伴う立体構造変化の解明(ミクロな視点)を行い、複雑なタンパク質複合体の形成機構の解明を行う。

老木 成稔

福井大学・医・分子生理
教授 医学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 チャネル蛋白質の構造変化に連携した自己組織化動態:チャネル新規機能発現機構の解明
研究目的  膜蛋白質であるイオンチャネルが膜で機能を生み出すための新しい様式を発見した。チャネルはゲート開閉構造変化に連動して膜上で可逆的な自己組織化を行う。一方、チャネルと膜脂質の相互作用がチャネル蛋白質の新しい構造モチーフ(センサーヘリックス)を介して行われており、しかもセンサーヘリックスがゲート構造変化を制御する。この2つの発見から導かれることは、チャネル機能発現においてチャネル蛋白質の構造変化が膜脂質との相互作用を変化させ、チャネルの膜内での孤立状態と自己組織化状態の遷移を引き起こしている、というシナリオである。本研究の目的は、分子内構造変化から超分子集合体形成にいたるチャネルの新しい動的機能発現様式の分子機構を明らかにすることである。チャネル機能測定(脂質平面膜法によるチャネル電流記録)とAFM(高分解・高速)を中心に研究を進める。また本申請課題は本新学術領域における様々な領域の研究者による分光学的手法など多様な手法を投入できる絶好の研究対象であり、積極的に共同研究を推進したい。

奥村 久士

自然科学研究機構・分子科学研究所・計算科学研究センター
准教授 博士(理学)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 親水性/疎水性溶液界面でのアミロイドベータペプチド凝集機構の理論的研究
研究目的  アルツハイマー病などの神経変性疾患はアミロイドベータ(Aβ)ペプチドなどが異常凝集してアミロイド線維を形成することが原因で発症すると考えられている。この異常凝集は神経系に豊富に存在する糖脂質GM1ガングリオシドクラスター上でAβペプチドが会合することで起きると報告されている。我々は糖鎖/脂質界面をモデル化した親水性/疎水性溶液界面でAβペプチドがダイナミックに離合集散する過程のシミュレーションを行い、Aβペプチドが自律的に集合する物理化学的メカニズムを理論的に解明する。これまで我々が開発してきたレプリカ置換法などの新しい分子動力学シミュレーション手法を活用して本研究を推進する。

菊地 和也

大阪大学大学院工学研究科
大阪大学免疫学フロンティア研究センター
教授 博士(薬学)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 生命分子機能を、時空間を制御して解明する設計分子プローブ
研究目的  本研究では、細胞内生体分子を時間と空間を制御して可視化し、細胞レベルで機能解明を行う。これらの機能解析手段は超分解顕微鏡等、近年急速に発達してきた。しかし、実際に使用されている化学プローブは蛍光蛋白質(Fluorescent Protein, FP)を用いる場合が殆どであり、その発現タイミングや発現強度の制御は容易ではない。このため、詳細な時間と局在解明に対応した技術を創り出す研究は皆無であった。この状況下、研究代表者は測定したい分子との反応に着目して化学プローブをデザインするという発想を基に、時間を特定して標的蛋白質に蛍光団を導入する原理を開発し、分子認識あるいは酵素反応を分光情報(蛍光特性変化等)へと変換できるプローブをデザイン・合成し、生物応用に成功してきた。本研究ではさらに、分子プローブの機能を向上させ、生命分子機能を時空間を制御して解明するための基礎研究を推進する。

佐甲 靖志

理化学研究所・佐甲細胞情報研究室
主任研究員 理学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 細胞膜受容体の動的会合体形成と分子認識反応
研究目的  細胞膜の受容体蛋白質が細胞外情報に応答して動的に会合体の組み換えをお越し、細胞内外の蛋白質分子との特異的な反応場を形成する様子を計測・解析する。上皮成長因子受容体(EGFR)、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)を計測対象とする。EGFRはリガンド結合依存的な2量体を形成して活性化し、さらに数分子のEGFRがリガンド結合後に会合体組み換えを起こして情報伝達を行う。mGluRは恒常的ホモ2量体であり、アゴニスト結合に伴う配置転換が活性化を引き起こす。さらにセロトニン受容体(5HTR)とヘテロ多量体を形成し、互いの活性を調節していると言われる。本研究では細胞内1分子計測技術を活用し、EGFR, mGluRの運動・会合体形成などの分子ダイナミクスおよび、細胞外リガンド、アゴニストや細胞質蛋白質と膜受容体会合体の相互作用キネティクスを計測し、膜受容体の自己組織化の生理機能を明らかにする。

笹井 理生

名古屋大学・大学院工学研究科計算理工学専攻
教授 理学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 タンパク質物性から振動の理論生物学へ
研究目的  タンパク質のアロステリック構造転移の転移経路と自由エネルギーランドスケープを計算する新しい方法を開発し、その成果をタンパク質間相互作用のシステム生物学と結びつけ、分子から細胞機能への融合分野を開拓する。具体例としてとくに、KaiABC 系の問題に注目する。KaiA, KaiB, KaiC という3 種のタンパク質とATP を混合した試料を約30℃に保つと、KaiC のリン酸化度合いに約1 日周期の安定な振動が現れるが、その機構は未だ明らかではない。これまでの理論モデルは、KaiABC 間相互作用の非線形システムダイナミクスを対象としていたが、実験データはATPase としてのKaiC のタンパク質物性の重要性を示しており、KaiABC の問題の本質が、タンパク質物性という分子レベルの問題と、タンパク質間相互作用の速度論というシステムレベルの問題のインターフェースにあることを示している。本研究ではとくに、タンパク質のアロステリック転移とATP 加水分解反応のカップリングに問題を解く鍵があると考え、分子からシステムを結ぶマルチスケールのシミュレーションの方法を開発する。

佐藤 健

東京大学・大学院総合文化研究科
准教授 博士(理学)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 細胞内輸送小胞の形成を支える動的秩序の解明
研究目的  細胞小器官の膜を変形させて小胞を出芽し、そこに特定の物質を取り込んで別の細胞小器官へと運ぶ「小胞輸送」とよばれる現象は、真核細胞内におけるダイナミックな物質輸送システムである。それを駆動しているのが、コートタンパク質と低分子量GTPaseを中心とする因子群である。小胞輸送における小胞形成はコートタンパク質が低分子量GTPaseによる調節を受けながら連結・重合(自己組織化)していくのを駆動力としている。ところが、コートタンパク質が時空間的に制御されながら膜上に集合し、秩序だって重合しながら膜を変形させていった後、内容物を一切漏らすことなく膜をくびり切り、結果として特定の物質を詰め込んだ膜小胞が形成されるという一連の分子メカニズムについては依然として不明な点が多く残されている。本研究では小胞輸送における小胞形成反応に注目し、試験管内再構成系や1分子計測系、さらにライブセルイメージングの手法を駆使して、小胞形成に関わる因子群が膜上で繰り広げる動的な秩序形成の原理について徹底的な理解を目指す。

真行寺 千佳子

東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻
准教授 理学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 鞭毛の振動運動発現に至る動的秩序形成
研究目的  真核生物の鞭毛の特徴である振動運動を生み出しているのは、鞭毛軸糸を構成する微小管(ダブレット)上に並ぶダイニン分子の高度に組織化された運動制御機構である。この機構の特徴は自律制御にある。ダイニンは、軸糸のどこに位置するかにより、すなわちどのような情報を周囲から得るかにより柔軟に反応を変調できる。ATPを加水分解して力を出し微小管上を動くだけでなく、外部から与えられる力学情報に反応する。しかしこれまで、振動を生み出す微小管滑り運動の秩序だった調節はダイニンの特性によるのではなく、軸糸内の多様な系による制御の結果であると考えられてきた。技術的にも、自律制御におけるダイニンの役割を明らかにすることは容易ではない。本研究では、鞭毛内で素子として働くダイニン分子の機能の未知の特性に注目し、ウニ精子の鞭毛を用いて振動運動時に類似の条件下での解析を実現することによりダイニンのこの特性を明らかにする。さらに、ダイニン分子の挙動・微小管滑り運動・滑りの軸糸内パターン・振動運動開始を誘起する滑り、の4段階の構造的階層性に基づくダイニン機能の変化に着目して解析を進める。これにより、ダイニン分子の多様で柔軟な自律的特性が統合されて振動運動という秩序系発現に至る基本原理の理解を目指す。

杉山 正明

京都大学 原子炉実験所
教授 博士(理学)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 生体分子集合体が形成する動的平衡の中性子小角散乱による研究
研究目的  中性子散乱の特徴は同位体識別能であり、特に軽水素・重水素間で大きい。この性質を利用した重水素化ラベリングを適用した中性子小角散乱は。溶液中でのタンパク質等の構造解析に力を発揮してきた。一方、代表者はこの手法を発展させ、タンパク質複合系における通常の方法では観測する事が不可能なホモオリゴマー間のサブユニット交換と言う動的平衡の測定手法に応用した。本研究課題では、このサブユニット交換と言う動的平衡が成立しているプロテアソームα7ホモオリゴマー系に、新たなタンパク質(α6オリゴマー)を加える事で、平衡がどのように変化するかを明らかにする。この事をとおして、動的平衡と秩序構造形成・機能発現の関連を明らかにする事を目的とする。

茶谷 絵理

神戸大学大学院 理学研究科 化学専攻
准教授 博士(農学)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 アミロイド伝播核生成相におけるタンパク質分子の集合・秩序化メカニズムの解明
研究目的  アミロイド線維は、タンパク質の形成する超分子集合体であり数多くの重篤な疾病に関与することが知られている。アミロイド線維の形成は、一般的に伝播核の生成とそれに続く成長の二段階で進行するが、前者が律速段階としてアミロイド線維の形成スピードを制御しているケースが多い。したがって伝播核生成の解明はアミロイド線維構造の出現、ひいては疾病の発症時期を左右する過程として重要な課題のひとつであるが、核がいつどのように形成されるのかの詳細は明らかではない。そこで本研究では、アミロイド線維形成プロセスの初期にタンパク質分子が会合し構造構築する様子、さらに周囲をとりまく水分子の動態についての解析を行い、アミロイド伝播核が生成する際のタンパク質分子の集合および秩序化メカニズムを解明する。

寺内 一姫

立命館大学生命科学部
准教授 博士(学術)
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 時計タンパク質の解離集合による時間自動補正メカニズム
研究目的  本研究においては、生物時計の同調機構に焦点をあて、概日リズム発振子として機能するKaiタンパク質による生物時計の分子機構を描き出すことを目的とする。本研究のターゲットであるタンパク質からなる生物時計は、動的に変動しながらその秩序を保ち、24時間という周期性を発生させるという高次な機能を発揮する。生物時計は光や温度などの環境変化に応答して時計の針を動かし、時間の位相を外的環境に合わせことができる。in vitroで再構成されたKaiタンパク質による時計もこの機能を保持している。本研究では、動的秩序という観点からKaiCに内包されている生物時計の作動原理を明らかにするとともに、時間を測定するタンパク質における不安定性から安定性を成立させる原理の理解を目指す。

水野 健作

東北大学・大学院生命科学研究科
教授 理学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 アクチン骨格超分子集合体の動的秩序形成機構と細胞遊走、力覚応答における機能
研究目的  アクチン骨格はアクチン繊維と多くのアクチン結合蛋白質からなる細胞内超分子集合体であり、その動的な離合集散の時空間的制御システムは、細胞の形態変化、運動、分裂、組織化など細胞の高次機能発現において中心的役割を担っている。本研究では、生細胞内のアクチンとその結合蛋白質の動態をリアルタイムで可視化・定量化し、外部環境の変動に応答してアクチン骨格がその構造を転換し、動的秩序を形成する機構を解明することを目的とする。特に、アクチンやその結合蛋白質のように、遊離型(拡散成分)と細胞骨格結合型(非拡散成分)で動態が異なる蛋白質の濃度変化を各成分に分離して定量解析できる手法であるs-FDAP法と、蛍光1分子イメージングを組合わせることによって、外的環境の変動に対するアクチン骨格超分子集合体の結合・解離動態を生細胞内で可視化・定量化し、細胞遊走因子や力学的刺激に対する細胞応答における細胞骨格の時空間的な動態制御機構とその機能的役割を解明することを目的とする。さらに、微小管とその結合蛋白質についても同様の手法を用いて動態を定量解析し、細胞運動、形態形成、紡錘体や繊毛形成における細胞骨格超分子の動態と機能を解明する。

村田 和義

自然科学研究機構・生理学研究所
准教授 理学博士
領域での役割 A03 公募研究代表者
研究課題 ロタウイルスの感染と増殖における構造秩序形成の解析
研究目的  ロタウイルスは病理学的にも構造学的にも非常に多く研究されている無エンベロープ正二十面体キャプシドウイルスの一つである。しかし、ウイルス粒子が宿主細胞内で実際にどのようにして複製されて構造的秩序を形成し自己組織化されていくかについての知見はほとんどない。本研究では、ロタウイルスを例としてウイルスの宿主細胞における侵入、複製、放出機構をクライオ電顕や連続表面ブロックSEMなどの最先端の電子顕微鏡技術を使って構造学的に解析し、その動的な構造秩序形成の過程を明らかにして、新しい自己組織化のモデルを提案する。